ここからは敦煌観光のハイライト、莫高窟。
ここはビジターセンター。
ドーム状のスクリーンを備えた映画館で事前に資料映像を見学し、専用のバスで莫高窟へ向かう。

莫高窟へ向かう途中にある大泉河(だいせんが)。
河の西に莫高窟、東に三危山(さんきざん)がある。

大泉河に架かる橋のたもと、碑板が建つ。
後方には高僧の供養塔が建つ。

荒涼たる地に建つ供養塔。
後のゴツゴツとした険しい岩山は三危山。

莫高窟由来記の一節。
「楽僔(らくそん)といえる僧あり。錫杖して山野を行く所、この地に至り、たちまちにして金色の光輝くを見、一窟を開く。」

仏教僧楽僔は旅をし、この地にやって来た。
ふと三危山を見ると、頂が金色に輝いていた。
仙人が住む霊場を確信した彼は、大泉河の対岸にある断崖に修行のための石窟を開いた。
時に西暦３６６年、莫高窟の始まりだった。

大泉河によって削られた断崖が続く。
河は涸れ川となっていた。
かつては莫高窟の石窟の影を美しく映したと言われているが、今は見る影も無い。

大泉河の橋付近から見た莫高窟の北区。
断崖に掘られた石窟は画工住居窟。

莫高窟は腕の良い画工によって掘られ、壁画が描かれた。
日数が掛かるため、この様な住居窟に住み込んで仕事をした。

画工住居窟以外にも僧侶の修行場・禅窟や、僧侶が住んだ僧房窟、墓であった遺窟などが集まっている。
禅窟は坐禅のためだけの窟で、天井が低く、２畳ほどの広さしかない。

供養塔跡。
莫高窟は敦煌市内から南東へ２５ｋ、鳴沙山の東の外れに位置する。

かつての正門跡、北大門。

観光客が中へ入る入り口に建つ門、小牌坊。
これから中へ入ります。

莫高窟の通りの風景。
それぞれの石窟は保護され、風化で破損した箇所は修復されている。

中央は４５４窟。
石窟とは、断崖の岩場を掘ったり、あるいは自然の洞穴などの岩穴の事で、この石窟を使い仏教寺院とした寺院を石窟寺院と呼ぶ。
敦煌莫高窟も石窟寺院である。

敦煌研究院院史陳列館。
莫高窟の調査や保護、美術品の整理などを行う考古学研究機関の成果をここで展示している。

蔵経洞とも呼ばれる１６・１７窟。
西暦１９００年、莫高窟で修行していた道教僧が偶然１６窟の通路北壁の先に空洞がある事に気付く。
壁を壊すと中には小部屋が出て来た。
驚く事に、そこにはおびただしい数の経典や写本、絵画などの古文書類が天井まで積み上がっていた。
名高い１７窟の敦煌文書である。

敦煌文書発見の話を聞いたイギリスやロシア、アメリカの探検隊がやって来て、これら遺物を本国へと持って帰った。
日本の大谷探検隊もその一つである。
当時の中国は敦煌文書に価値を見いだせていなかった。

狭い１７窟に大量の古文書が隠されていた理由には、いくつかの説がある。
当時敦煌を治めていた西夏(せいか)王朝が、イスラム王朝のカラハン朝に侵略された場合を考え、仏教文化を守るために隠したとする説もある。

いくつも残る石窟群。
大泉河の断崖に残る莫高窟の石窟は南北に１．５ｋに渡って４９２窟も残っている。
また、仏像の数は大小３０００体を超え、石窟内に描かれた壁画は横に並べたとすれば総延長４５ｋにも達すると言う。
まさに世界最大の美術館と言える。

敦煌は河西回廊(かせいかいろう)の西の端に位置し、古くから西域へ行き交うシルクロードの拠点の街として栄えた。

河西回廊とは漢の時代、長安の都から西へ向かい、黄河を渡った辺りから敦煌までの地域を指す。
河西の河とは黄河の事で、黄河の西に続く細長い回廊の様な地帯。

河西回廊は祁連(きれん)山脈の北側にあり、沿線には山からの水によっていくつものオアシス都市がある。
敦煌も祁連山脈を水源にしたオアシス都市の一つ。

これは１３０窟の南大仏殿。
中には唐の時代に造られた２６ｍの弥勒菩薩の大仏が鎮座する。

敦煌がある辺りは、古代シルクロードの東部を形成し、東部中国と西方諸国との交流を行ったルート上にある。
古く紀元前は遊牧騎馬民族、月氏(げっし)、その後、月氏を破った匈奴(きょうど)の支配する地だった。

河西回廊を漢が支配すると、漢の武帝(ぶてい)が西域への軍事拠点とし、北西に玉門関(ぎょくもんかん)や南西に陽関(ようかん)などの要塞を建設し、敦煌は重要な街となった。
この時代、漢王朝に保護され、西域との交易が盛んになる。

交易が盛んになると、西域からラクダの背に特産品を乗せた隊商がやって来て、漢から来た絹を持って帰った。
シルクロードである。

石窟内の壁画は撮影禁止なので、通路には資料がいくつも展示されている。
これは修復前後の比較資料の様だ。

１４８窟に安置する涅槃仏の資料。
寝仏とも呼ぶ。
筆者もこの窟に入ったが、人が多く、頭の方向から足の方向へ一方通行で流れる様に見物しました。

壁画は石窟内だけでは無く、外側の壁にも多く残っている。
右は空を飛ぶ飛天。

羽衣をまとい、天を舞う天女の壁画。
シルクロードの交易が盛んになると、西域からはブドウや胡(えびす)の字が付く産物、胡麻(ごま)、胡瓜(きゅうり)、胡桃(くるみ)、胡椒(こしょう)、胡豆(えんどうまめ)、胡蒜(にんにく)、胡蘿葡(にんじん)、胡菜(あぶらな)などが入って来た。
胡とは西域の外国人の事。

莫高窟の石碑。
漢の後期には敦煌は周囲が砂漠ばかりの地である事から砂の州、沙州と呼ばれる。

莫高窟内の見取り図。
６世紀後半、南北朝時代の多くの王朝の興亡の中から再び中国を統一したのが隋。
三十数年の短い王朝だったが、仏教を熱心に保護し、莫高窟でも１００もの石窟を造った。

シルクロードの東西交易を基に繁栄したのが唐。
この時代、莫高窟も全盛期を迎え、２３０窟もの石窟が造られた。

唐王朝が弱体化すると、代ってチベット族の王国、吐蕃(とばん)や、その後のチベット系民族タングートの王朝、西夏が敦煌を支配する様になる。

西夏王朝の城砦都市カラ・ホト(黒水城)がモンゴル帝国チンギス・ハンによって攻め落とされ落城し、西夏王朝は滅亡する。

元王朝時代になると交易路は南の海の道に移り、河西回廊を行き来するシルクロードは廃れて行った。
莫高窟も元王朝を最後に１０００年に渡る仏教寺院の活動は終わりを迎え、寂れてしまった。

その後、莫高窟は忘れ去られ、歴史からも消える。
再び歴史の表舞台に出るのが、前述した敦煌文書発見である。

北大仏殿へ向かいます。
敦煌莫高窟はユネスコ世界文化遺産に登録されている。

９６窟、北大仏殿の九層楼。
莫高窟内の建造物で最も目立ち、最も有名な、莫高窟のシンボルともなっている大仏殿。

北大仏殿の九層楼。
外観は９層だか、中は吹き抜けで、３５ｍもの弥勒菩薩の大仏が鎮座する。
お顔を正面から拝むには階段で上まで登らなければならない。

北大仏殿の前は出口になっていて、広場がある。
建物全景をカメラに収めるのにはちょうど良い。

出口から大泉河に掛かる橋の方向へ向かう。
途中に建っていた飛天の像。

こちらは天女の像。
石窟寺院で有名なのは莫高窟以外に洛陽龍門石窟や大同雲岡石窟があり、全て世界文化遺産に登録されている。

大泉河の橋の手前に建つ大牌坊。
欄間額には石室寶蔵とある。